進学塾nend

Nend Community News 2021-6月号 電子版

   

「今月の言葉」

文章の中にある言葉は、辞書の中にある時よりも美しくなければならない

───芥川龍之介

トピック「チョコレート理論と自己イメージ」

「チョコレート理論」というものがある。普段からチョコレートが好きだと言っていれば、自然とチョコレートが集まってくるというものだ。おみやげを買ってきてくれる人も「そういえばあの人チョコレートが好きだったね」と選びやすくなるし、珍しいチョコレートがあったら買ってあげようと思ってもらえたりもする。僕は「コーヒー理論」を実践しており、定期的にコーヒーがもらえて幸せである。

欲しい物やなりたい自分を公言することは、その実現を容易にする。人間は人と人とのつながりの中で生きる社会的な生き物であり、私たちの願望は、学業であれ、仕事であれ、交際であれ、その社会的関係の中で達成されるものだからである。無人島で「チョコレートが欲しい」と言ってもそれが叶うものではないのは当然だ。

格の低いホテルが広告を出すかわりに、著名人を招いてホテルの記念祝典を行うようにしたところ、次第に客層が良くなり、客入りが良くなったという。人々が「著名人が来るくらいだから、いいホテルに違いない」というイメージを持ち、そのイメージが現実を作り出したのである。これを予言の自己成就という。テストの前に「失敗するかも」と悪い想像をして不安にかられると、実際に実力を発揮できなくなるのも同じ作用である。

イメージ、特に自分自身に対する自己イメージは、その人の行動に大きく影響を与える。「自分は勉強が苦手だ」と考えている子は、少し考えればできる問題であっても容易にあきらめやすいし、「自分は勉強が得意だ」と考えている子は、難しい問題にも粘り強く取り組むだろう。
しかし、「勉強が苦手だ」と思っていた子もテストで良い点が取れたり、親や先生から認められたりといったことで、自己イメージが変化することがある。「自分はそれほど勉強ができないわけではない」と考えるようになると、以後はこれまでよりずっと前向きに勉強に取り組むようになるだろう。すると、周りのその子に対するイメージも良い方向に変化するし、それがさらなる好循環をもたらすことになる。

当人の持つ自己イメージは、叱ったり罰を与えたりという方法では変えられない。勉強ができないことを叱ったところで苦手意識をより強固にしてしまうだけだ。子どもに「できる」というイメージを与えてあげるのが親や指導者の務めではないだろうか。

トピック「ねんちる」vol.160

近くのコンビニで突然「先生ですよね」と声をかけられる。振り返るとM君。16年経っても相変わらずイケメンだ。連絡先を交換して飲みに誘う。

M君は典型的な「やればできる」タイプ、つまり理想ばかり高い怠け者で、努力なんて全然しないのに世の中を斜に見ているものだから、周りから与えられるチャンスをことごとくふいにしてしまう。顔はイケメンなのに中身はとにかく残念なやつ。高校を卒業したあとは、自衛隊に入ってみたり、辞めて船乗りになってみたりと落ち着かず、今は東京でイラストレーターをやっていたけど、コロナでこっちに戻ってきたらしい。昔から僕は「こいつはすごい悪党になるか、立派な成功者になるかどっちかだ」と思っていたけど、まだどちらでもない。

M君を見ているとかつての自分を見ているようで、苦くも甘酸っぱい気持ちになった。

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