進学塾nend

pedal!pedal!pedal!

      2015/03/21

ペダルはアイスクリームのようになめらかで、車輪は熱く灼けた舗道の上をぐんぐん加速をつけて回転した。この自転車は、とわたしは思った、乗り手の下から飛び出そうとするロケットみたいだ。(中略)
自転車はわたしを乗せて木々が影を落とす町の通りから通りをロケットのように疾走した。そうやって走りながら、あるカーブを曲がったとき、名前はそれでいこうとわたしは決めた。
「ロケット」と言ってみた。その言葉は背後に生じた後流に揉まれながら遠ざかっていった。「おまえも気に入っただろう?」
自転車はわたしをほうり出しはしなかった。近くの木に向かって勝手に走りだしもしなかった。わたしは了解されたものと解釈した。
(ロバート・マキャモン「少年時代」)

 

小路のはずれに〈一時停止〉の標識が出ている。ビルはブレーキをかけはじめる…そしてまたこぎはじめる。(中略)
風はますます強くなって額の汗を冷やし、蒸発させてくれ、そして耳もとを飛び去っていく、それは恍惚とするような低い音、巻貝の中の海の音にちょっと似ていて、この世の音とは思えない。スケートボードに乗るあの子にはおなじみの音だろうなとビルは思った。だが、これは大人になると忘れてしまう音だよ、坊や。ものごと、とかく変わるものなんだ。大人の世界は汚いんだよな、せいぜい覚悟しておいたほうがいいぞ。
ペダルをもっと勢いよくこぐとスピードがあがり、車体はむしろ安定してくる。ビルは叫んだ。「ハイヨー、シルヴァー、それいけえええええ!」
(スティーヴン・キング「IT」)

 

子供の頃、夏休みに自転車でどこまでいけるかと小旅行。計画も、地図も、お金も、何も持たずに。
国道をただひたすら進んでいた。途中大きな下り坂があって自転車はひとりでに進む。ペダルを漕がなくても。何もしなくても。ただ、ただ気持ちよかった。自分は今、世界一早いんじゃないかと思った。子供心に凄く遠いところまできた事を知り、一同感動。滝のような汗と青空の下の笑顔。
しかし、帰り道が解からず途方に暮れる。不安になる。怖くなる。いらいらする。当然けんかになっちゃった。泣いてね~よ。と全員赤い鼻して、目を腫らして強がってこぼした涙。交番で道を聞いて帰った頃にはもう晩御飯の時間も過ぎてるわ、親には叱られるは、蚊には指されてるわ、自転車は汚れるわ。でも次の日には全員復活。瞬時に楽しい思い出になってしまう。絵日記の1ページになっていた。

今大人になってあの大きな下り坂を電車の窓から見下ろす。家から電車でたかだか10個目くらい。子供の頃感じたほど、大きくも長くもない下り坂。でもあの時はこの坂は果てしなく長く、大きかった。永遠だと思えるほどに。今もあの坂を自転車で滑り落ちる子供達がいる。楽しそうに嬌声を上げながら。
彼らもいつの日にか思うのだろうか。今、大人になってどれだけお金や時間を使って遊んでも、あの大きな坂を下っていた時の楽しさは、もう二度とは味わえないと。もう二度と、友達と笑いながらあの坂を、自転車で下る事はないだろうと。あんなにバカで、下らなくて、無鉄砲で、楽しかった事はもう二度とないだろうと。
(2chのコピペ)

>あなたが今も自転車に乗っているならば、きっとそんなことはない。
(このコピペに対する賛同の多かったレス)

 

しまなみ海道に行ってきました。

尾道のジャイアントストアでロードバイクを借り(9,000円ちょいでした)、尾道から今治までサイクリストの荷物を運んでくれるという社会実験をされているNPO法人シクロツーリズムしまなみさんに荷物を預け(ホテルまで取りにきてくださった)、友人(おまるくん)と二人で尾道大橋を渡ってペダルをこぎ始めた。

(尾道大橋を渡らずとも、尾道からは駅に近い尾道港の「渡し舟」を利用するのが一般的のようですが、リサーチ不足でした。)

天気は曇天、昨日までの春の陽気がうそのように肌寒く、海の色もにび色。でもジャイアントさんで借りたロードは力強く、ぐんぐんと前へ運んでくれます。

道路には路肩に青いペイントでコースが示してあり、今治までの距離も表示されているため、ナビなども必要がなく、ペース配分もしやすくなっています。

また、尾道から今治までの間にある、向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島の間にはそれぞれ橋がかけられているのですが、自転車の走行場所が、車両のそれと完全に別れていて、安全で走りやすい設計になっています。橋は少し高いところにあるため、高低差50m前後を登らなければなりませんが、これがなかなか楽しくて、全行程のなかで僕のいちばんのお気に入りでした。

自転車を始めたばかりのころは、平坦な道が一番好きでした。上り坂はつらいものでしかなかったのですが、走り終えて一番思い出に残るのが上り坂で、一番記憶に残りづらいのが平坦な道であることにふと気づいたのです(ちなみに世界中の上り坂の数と下り坂の数は同じである、という詭弁に対する反論が見つからないのですが、みなさんはどうですか)。

坂を上り、橋を渡り、坂を下り、瀬戸内の美しい島々を臨みながらのんびりとした道を走り、地産の料理を楽しみ、また坂を上って橋を渡る。天気は悪く、途中で弱い雨まで降りだしたのですが、それでも最高のひと時でした。サイクリストの聖地というのもうなずけます。今回はおまるくんと二人で走ったのですが、おまるくんは長距離ライドの経験も少ないなか、しっかりとしたペダリングでペースをあわせて走ってくれました。さすがに坂道はつらそうでしたが、行く先々ですれ違う地元の人や、サイクリストに積極的に声をかけていて、それもまたひとつの旅の醍醐味を感じさせてくれました。

今治のジャイアントストアに自転車を返却すると、シクロツーリズムしまなみさんが、ストアまで荷物を届けてくださっていて、すぐに清潔な衣服に着替えて、落ち着くことができました。こういったシステムが整えられているからこそ、心置きなく楽しめたものと思っています。みなさんもしまなみ海道にぜひ足をお運びになってください

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