進学塾nend

Nend Community News 2025-5月号 電子版

   

「今月の短歌」

かなしみはすべて僕らが引き受ける桜の花は上に散らない

───木下龍也

トピック「常識がない子」

 私の生徒のひとりが年末に福岡に旅行に行くことになったときのこと。冬とはいえ福岡は気温が高いだろうと、彼は半袖に薄いジャケットを羽織っていったところ、身を切るような寒さにふるえたそうです。彼は日本が南北に長い形をしていて、福岡は神奈川よりもはるか南にあると思っていたのですが、実際には東日本は南北方向に、西日本は東西方向にのびた形をしており、福岡と神奈川はほとんど緯度が変わらないのです。
 みなさんは彼が常識外れだと思うでしょうか。

「常識で考えたらわかるでしょ」子どもが間違えたり、すっとんきょうな質問をしてきたときに、私たち大人は子どもに対してついこのように言ってしまうことがあります。ですが、少し立ち止まって考えますと、私たちが常識と呼んでいるものは、初めから私たちに備わっていたものではありませんね。きっと私たちが子どものときに誰かが――両親や祖父母、友だちや学校の先生が――教えてくれたに違いありません。ですから「常識で考えて」という前に、その子にとってはこれが初めて常識を知る機会なんだと思ってください。

 大人と子どもではどちらが頭がいいかといえば、これはもう確実に大人のほうが頭がいいです。それは、大人は一つの物事を、これまでに得た様々な知識――私たちが「常識」と呼んでいるもの――によっていろんな角度から眺めて検討することができるためです。旅行に行ったことのない子どもにとって福岡県は社会で習う日本の県のひとつにすぎません。こういった子どもを「常識がない」と批判するのは妥当ではありませんね。

 こういったことから、多くの体験を持つ子ほど、物事を多角的に捉えることができるといえます。旅行や帰省で福岡を訪れたことがある子にとっては12月の福岡が寒いということは「常識」かもしれません。多くの自然に触れたり、あちこちの県を訪ねたり、史跡を巡ったり、博物館や資料館を訪れることは、子どもの知識を豊かにしてくれます。ですから、子どもにはできるだけ旅行に連れて行ってあげて、多くのことを経験させてあげてほしいと思います。

 子どもがおかしな質問をしてきたときこそ「常識」を教えてあげられるチャンスです。(この子にとっては、今日が初めてなんだ)と、温かく接してあげてください。

「ねんちる」第207段

 Mちゃんは小学4年生からお預かりした生徒で、いつもにこやかな表情をした、小柄な女の子。口数が少ないどころか人前で話すことはなく、授業で質問をしても、少し困ったような顔をしたまま黙りこくってしまう。家では普通に話せるので、お母さんは本人のことを恥ずかしがり屋だと考えていた。周りの子はそういったMちゃんのことを分かっていて「これ食べる?」「ゲームしよっか」などと積極的に話しかけ、Mちゃんはうなずいたり、首をふったりしてこれに答えていた。
 今ならMちゃんは場面緘黙(かんもく)という特定の場所で話せなくなる思春期に多くみられる状態だとわかる。心理では本人が「困っている」状況でない限りこれを病気や症状とは考えない。Mちゃんは周りに温かく受け入れられていたのが幸いだった。
 その後、市内の上位高に進学し人前でも普通に話すようになったそうだ。

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